Floating in Europe

ヨーロッパで言語学を学んでいる学生の日々です

言語と統計

こんにちは。ちょっとしたドイツでの1コマ。先週の土曜日に届くはずだった荷物が配達業者のミスで今日届きました笑笑。珍しい話ではなくドイツでは割と良くある話です。つくづく日本の郵便や宅急便はきっちりしているなと痛感しています。届いたからよしとしますが笑笑。今日は先日読んだ論文について思うところがあったので皆さんにシェアしたいと思います。

 

 

言語と統計

先日言語に関してどのように統計を取るのか?という論文を読みました。オーストリア国勢調査を例にとって、その国の言語に対する考え方がどのようにその調査の設問にあらわれているのか?という論文でした。言語に関する統計とは、その国に住んでいる人がどんな言語を何ヶ国語話すのか?といった統計です。オーストリアでは例えば家庭ではドイツ語を話すことが当たり前だとされている、ということや、「ヨーロッパの言語」の中でも英語、フランス語、イタリア語は他の「ヨーロッパの言語」と区別され統計を取られているということなどが、設問の作り方や聞き方から見えてくるという分析がされていてとても面白かったです。

ふと日本はどうなのだろう?と思って探してみたら日本は少なくとも国勢調査で言語に関する統計は取っていませんでした。(パッと私が探してみた限りなので、もしかしたらあるのかもしれませんが、少なくとも簡単には見つけられませんでした)。パッと見つけられた言語に関する統計や調査は文化庁が行なっている「国語に関する調査」というものくらいでした。

www.bunka.go.jp

これは日本語の使われ方(敬語や外来語、方言など)についての世論調査でした。これはこれで面白かったので興味のある方はぜひ見てみてください。日本人が日本語に対してどのような考えを持っているのかが垣間見られます。民間の調査会社などが英語についての統計をとっており、調査によりけりですが、英語を話せる日本人は全体の1割から3割などという数字は見つけることができました。が、英語以外の統計や調査は皆無といってもいいくらい見つけることができませんでした。

とはいえ、国として統計をとっていないということは珍しいわけではありません。ドイツでは第二次世界大戦時にユダヤ人やロマ(昔はジプシーと呼ばれていたグループ)の統計が迫害のために国によって不正に利用された過去があるので戦後から2017年まで国として言語に関する統計は取られていませんでした。他の国でも例えば植民地支配のために使われたりしたこともあるため、どの国でも当たり前に言語に関する統計が取られているわけではありません。

ただ、日本が言語に関する統計を取っていないのには、違う理由があるようです。日本の統計局が2008年に国勢調査の新規調査項目の要望に係る対応方針という文章を出しているのですが、そこには言語に関する統計の要望について外国人の国籍から話す言語も特定できるので、必要性は低いという回答がなされています。

https://www.stat.go.jp/info/kenkyu/kokusei/kentou/pdf/07syou03.pdf

これは言語学を学んでいる学生から見て、かなり短絡的と言わざるを負えません。国籍=言語ということは中々通用しません。例えば国籍を変更する人も山ほどいれば、国籍はひとつでも当たり前に多言語で育つ人もいます。このような例から見ても国籍と言語は結びつかないことも多々あるので、この回答には首を傾げてしまいます。日本でも私のように多言語で育つ人もいる以上、単一民族国家と言われやすい日本ですら国籍=言語という方程式は成り立ちません。また、フォーカスが日本にいる外国人だけで、日本人が何語を何言語話すのかというフォーカスがないのも気になってしまいました。

個人的にはその国の実際の多様性を見るためには、統計を取るのも悪くはないのかなと思います。日本に住んでいるのは「日本人」だけではない以上、日本語以外も話されていますし、外国語を学ぶときに学ぶのは英語だけとは限りません。ただその多様性があるにも関わらず、統計が取られていないことにより、社会の中で見えなくさせてしまっているということは、いえると思います。言語学を学ぶ学生からしても、統計があればリサーチがしやすくなるというメリットもありますし、日本でも統計をとってほしいなと思います笑笑。前回ドイツでの他の言語の使用などについてのエッセイを書いたときも統計などがなかなか見つからず苦戦した覚えがあるので、いろんな調査があると、学問の幅も広がるなと思います。論文に書いてあった通り、統計の取り方によって結果が全く変わってくる可能性もあるので、どんな統計でも鵜呑みにすることはできませんが、少なくとも目の前の現実を理解する手助けにはなるのではないかと思います。

 

 

今期は最終課題として、3つほどエッセイを書いて、口頭試験を1つ受けることになりました。今のドイツの大学に来るまで、大学で口頭試験を受けたことがないのでちょっと緊張します。そろそろテストシーズンなので、早め早めに頑張ろうと思います。提出した卒論のテーマの許可が担当教授から出る時期も近づいてきました。卒論についても今度記事にしようと思います。ではまた!

大学のカフェテリアからの風景。住んでいる街の有名な川が見えます。



 

読んだ論文

Busch, Brigitta (2016): Categorizing languages and speakers: Why linguists should mistrust census data and statistics. In: Working Papers in Urban Language & Literacies 189, S. 1-18.